田辺哲男 VOICE 2021/07/22 伊藤巧の話。

2021/7/17
伊藤巧がB.A.S.S.エリートツアーで優勝した。


Photo by Shane Durrance/B.A.S.S.

それ自体が快挙であることは間違いない。ただ、俺自身が驚いているのは、あまりにも短期間で巧がそこに辿り着いてしまったこと。

オープン初年度でエリートへ昇格し、エリート初年度はルーキー・オブ・ザ・イヤーこそ逃したもののノーザンラウンドのスモールマウス3連戦をすべてトップ10フィニッシュを決めたうえで年間ランキングからクラシック出場のチケットを手に入れている。

エリートに上がるとき、「オープンとはレベルが違うから、覚悟しておいたほうがいい」という話をしていた。「初年度はダメでも、エリートの場合、最初の2年は年間のスコアを出せなくても資格を維持できるから」と。ところが蓋を開けてみれば、そんな保険などまったく必要のないパフォーマンスを発揮したわけだ。

そして今年は、シーズンの始まりこそパワーゲーム優勢に苦戦していたけれど、スモール戦では持ち前の食わせに長けた力を見せつけた。

巧は、本当に釣りが巧いのだ。

かつてまだ巧の名前が広く知れ渡っていなかった頃、第三者は彼の巧さに気付いていなかった。俺がそう言っても、どちらかといえば控え目なその容姿だけを見て、キャラが薄いとか派手さがないからという理由で一般には受け入れられないだろうという意見が業界内の大半を占めていた。それに対して俺は、「いや、そうじゃない。釣りが上手ならメジャーになれるはずだ」と論破してきた。

そして実際、陸王で勝ち、艇王で勝ち、巧は自分のポジションを結果を残すことで押し上げていったのである。

少なくともトーナメントの世界においては、結果がすべて。巧い人間、勝った選手が認められるのであって、キャラなど後からついてくればいいだけの話。だから俺は、巧の目をアメリカへ向けた。そして背中を押した。彼は本当に巧い。そう思ったからだ。そこがどれだけ過酷な世界であるか自分がよく知っているだけに、おいそれとアメリカへ行けなんて言えない。

いざ魚を見つけてしまえば、それを釣るセンスは群を抜いている。


Photo by Seigo Saito/B.A.S.S.

しかもスモールマウス戦ではラージマウス以上に、エレクトロニクスを駆使した戦略を組み立てられる。

優勝インタビューで巧は「何百ものスモールマウスが自分のボートに寄ってきてくれた」と言っていた。それは裏を返せば、魚さえいれば釣れるという自信の表れでもあったはず。

スモールマウスがラージと違うのは、意外と地形変化で探せて、魚探映像として映りやすい場所に多い点。だからいざ魚を見つけてしまえば、あとは「食わせるのは任してください」となるわけだ。しかもエビだハゼだと、マッチ・ザ・ベイトの幅が比較的狭い。みんながみんなスピニングを軸にしていて、スイムベイトやビッグペンシルで破格のスコアを持ち帰ってくる選手はまずいない。

巧がラージで苦戦する理由のひとつは、むこうのベイトフィッシュをまだ理解していない点にある。

たとえば日本のワカサギレイクであれば、季節毎にどう対処すべきか、想像できるだろう。同じように、現地のプロたちはいまバスが何をメインベイトにしているか、そのベイトがどんな行動パターンなのかを実によく知っている。巧はそれを知らない。だから魚を追いかけきれない。

逆にそれを把握できたとき、さらなるステップアップは想像に難くない。そしてその伸びしろはまだたくさん残されていて、来季はどんな成長を見せてくれるのか、俺自身、楽しみでならない。


Photo by Shane Durrance/B.A.S.S.

巧が帰国したあと、各メディアで何を伝えていくか。ぜひ、そこに注目してほしい。使うルアーがどうとか、そんなレベルの話ではけっしてないはずだ。

巧、優勝おめでとう!!
さらなる飛躍を期待しています。
 

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